小諸そばのメニュー表を見ていると、ちょっとドキッとする名前が目に入ります。「月夜のばかし」。天ぷらそばや、きつね・たぬきのように、名前から見た目が想像できるタイプではありません。
初めて見ると、「これって何が出てくるの?」と普通に迷ってしまうネーミング。しかも「ばかし」という言葉が、なんだか妙に引っかかります。
ちょっと怖いというか、不穏というか…。馴染みのない言葉すぎて、「なんなんだこれは?」となってしまうはず。バカみたいに美味しいってこと?いや、表現が雑すぎる。
ということで、今回は北千住駅構内の小諸そばへ。実際に「月夜のばかし」を食べている人にもお話を伺いながら、この謎メニューの正体を探ってみることにしました。
小諸そば「月夜のばかし」とは何なのか

まず、「ばかし蕎麦」とは何なのか。これは、「きつね蕎麦」と「たぬき蕎麦」が合体したお蕎麦のこと。狐と狸が「化かし合っている」ように見えるため、「ばかし」と呼ばれることがあるようです。
さらに小諸そばでは、ここに「月」を意味するうずらの卵、「夜空にかかる雲」のとろろを追加。これによって、「月夜のばかし」というメニューになっているわけです。
ただ、ここで気になるのが「化かし合い」という言葉。私たちの感覚的には、「化かし合い」と聞くと「狐vs狸」のバトルに聞こえてしまいます。

満月の夜に、「出てこい狸!化かしてやる!」「こっちこそ!」みたいな…、バチバチなやつ。
でも、実はそういう意味ではありません。昔話の世界では、狐も狸も「人を化かす側」。つまり「月夜のばかし」は、月夜に狐と狸がタッグを組み、人間を化かしに来てるイメージなんです。


ちなみに、関西では「きつね」は「うどん」、「たぬき」は「蕎麦」を意味することも。
なので、「狐と狸の化かし合い」と言われると、素うどん&かけ蕎麦の「ダブル炭水化物」みたいな、かなり意味不明な食べ物になってしまいます。
そう考えると、このメニューは関東文化寄りなネーミングなのかもしれません。


「月夜のばかし」を食べている人に話を聞いた

そんなわけで今回は、北千住駅構内の小諸そばにやってきました。休日ということもあり、店内には電車の待ち時間にサッと蕎麦をすすっていく人や、買い物帰りらしき人たちの姿がちらほら。
そんな中、「月夜のばかし」を食べている人に、「ばかし」の意味は知っていたか聞いてみたところ…。
「バカの最上級ってことでしょ?『ワルしっ!』とか『うましっ!』みたいな。」
「親戚の叔母さんが『このバカシッ!』って飼い犬を叱ってたし。方言かな…って。」

どうやら、この「月夜のばかし」。現代人にとっては、「化かす」よりも「バカ」を連想してしまうようです。この人にも「実際の由来」を簡単に説明し、味がどうだったか聞いてみると…
「へぇ〜、バカなのは俺だったのかあ笑。」
「まあ、味は…普通かな。」
普通!?
なんというか、もっとこう、「何か変な感じ」があったとか、コメントして頂かないと伝わらないんですが…。


「冷やしたぬきと、きつねに、とろろ。あと…、うずらが乗った、そのまんまの味だよ。」
くっ💢、こいつ…。
というわけで、名前は完全に妖怪チックなのに、出てくるものは、かなりフツーなお蕎麦なんだとか。
月夜のばかしは最後まで人を化かしてくる

しかし、ここで少し奇妙なことに気付きました。
おろし生姜が付いています。冷やし蕎麦といえば、普通はわさびを想像するもの。実際、この男性も最初は、いつもの感覚でわさびを取ろうとしたそうです。
「でもこれ、生姜が付いてきたんだよ。『え、生姜で食えってこと?』って思ってさ。」
しかも、よく見るとキュウリまで乗っています。するとこの男性は、真顔で妙なことを言い始めました。

「姉ちゃん、もしかして俺…、カッパにも化かされたってことなのか?」
なるほど…。言われてみれば、キュウリという時点で、急にカッパ感が出てきます。つまり小諸そばの「月夜のばかし」は、狐と狸だけの話ではなかったのかもしれません。

名前で化かされ、意味で化かされ、生姜でも化かされる。しかも、どれも決定的に変なわけじゃない。でも全部が少しずつ感覚をバグらせる。
その積み重ねで、「なんか騙された気がする」という気分になっていく。どうやらこの蕎麦、本当に最後まで人を化かしに来るようです。

ちなみに、この日は休日。お一人なんですか?と聞いてみると…。
「今日はね、群馬・埼玉・栃木の三県境を見に行って来たんだよ。家族に『一緒に行こう』って言ったんだけど、『は?』って顔されてね。」
往復2時間以上も電車に乗って見に行ったものの、現地はかなりシュールで、たったの5分で見終わってしまったんだとか。


せめて帰りの北千住駅で、美味い蕎麦でも食べようと思ったのに、こっちでも「化かされた(美味しかったけどね笑)」と。もう次は普通の小諸そばが食べたいな、とのことでした。
「月夜のばかし」─ その名の通り、キッチリと食べる側を「化かしてくれる」、そんなメニューだったようです。







コメント