駅そば店でおなじみの「コロッケそば」。関東では不動の人気メニューですが…、特に関西の人に話すと「なんでコロッケ?」と言われてしまう。
サクサクのコロッケをわざわざ湿らす意味が分からへんし、そもそも黒い汁があかん。そんな声もよく聞きます。
ただ、関東の駅そば店では昔から普通にメニューに並び、実際に頼んでいる人もちゃんといます。揚げ物を湿らす意味が分からへんなら、それは「天ぷら」も同じこと。
なので、今回は品川駅の老舗駅そば店で、実際にコロッケそばを食べている人にお話を伺いながら、その違和感がどこから来るのかを解き明かしてみます。
コロッケそばが「まずい」と言われる理由

コロッケそばが「まずい」と言われがちなのは、味よりも「イメージ」にありそうです。
コロッケといえば、外がサクサクで中がホックホクな状態を思い浮かべますが…、そばに乗せた瞬間にそれは絶望的。外はベチャベチャ、中の芋がダバ〜っと出てきて、見た目の劣化は酷いはず。
つまり、こういう「イメージ」が先行することで、食わず嫌いの「まずい決めつけ」になってしまう。さらに関西風の出汁に慣れている人ほど、この変化へのダメージは「大」なはず。
溶け出した芋と揚げ油…、その様子もはっきり見えてしまうので、関西風の出汁が台無しになったと感じるでしょう。でも、街の蕎麦屋には「コロッケそば」なんて置いてないことの方が多いはず。


では、なぜ駅そば店はそんなメニューを出してるのか。それは「早く・安く・腹を満たす」ことを優先する駅そば店では、調理が簡単で、しかも安くて満足度が高いコロッケが最適だったからでしょう。
作り置きもできて、冷めても「それなりには味わえて」、見た目のインパクトも期待できる。つまり最初から、コロッケそばは「ベチャ・芋ダバ〜」を前提にしたメニューだったわけ。
これを知らずに食べると、違和感がそのまま「まずい」になりやすく、逆にここを理解しているかが、コロッケそばを「美味い!」と感じる第一歩になるというわけなんです。
コロッケそばを食べている人に話を聞いた


そんなわけで今回は、コロッケそばを一押しメニューとして挙げている品川駅の老舗立ち食いそば店にやってきました。
店内を見回してみると、コロッケそばが押されている一方で、実際にはかき揚げそばや名物の品川丼、カレーなど、お客さんたちはそれぞれ好きなメニューを頼んでいる様子です。
そんな中、コロッケそばを食べている人に、選んだ理由を聞いてみました。

「それは…、コロッケそばが好きだからだよ。」
愚問でしたね…。では、なぜコロッケそばが好きなのか、ストレートに聞いてみます。
「昔の駅そばってさ、とにかく不味かったんだよ。かき揚げなんて、特に食えたもんじゃなくてね。でもコロッケはつゆにヒタヒタして育てれば…、食えたんだよ。まあ、その頃の名残りかな。」
このお客さんは昭和50年代生まれの40代だそうだ。でも揚げ物を「ヒタヒタすれば」って意味なら…、かき揚げでも同じはず。

なのに、なぜコロッケにこだわるんですか?と聞いてみたところ…、その答えは意外と「意味不明」でした。
「最近の『かき揚げ』は美味すぎんだよ。やっぱり駅そばの『花形』だからな、味も良くなるわけさ。でもコロッケは…、そうでもねえ。」
「わかるかなあ?駅そばに期待するのって、いい意味での『まずさ』だから。」
…。このオッサン、何を言ってんだろう。正直、私はそう思いました。

いいか?姉ちゃん。かき揚げってのは「揚げたてサクサク」が一番美味いに決まってる。だから、つゆにヒタヒタしても味は落ちる一方だ。
でもな、コロッケは違う。冷えてしみったれたコロッケでも、ヒタヒタすれば味は上がる。
「自分で育てる愉しみ」ってのが、コロッケにはあんだよ。 ─ と、そのオッサンはコロッケそばへの情熱を…鬱陶しいほどに語り始めました。
えーっと、面倒なのでまとめますが…、「コロッケそば」は味で選ばれているというより、昔の駅そばの記憶や、育成ゲーム的な快楽によって、「離れ難い存在」になっているようです。
讃岐うどんが暴いたコロッケそばの意外な結論

しかし、コロッケそばについて考えていくと、どうしてもぶち当たる壁が出てきます。それは「昔は〜」的な時間軸ではなく、関西では特に「コロッケそばに否定的」という地理的な現実です。
なのでこのオッサンに、それについてどう思うのか聞いてみました。
「そうなんだ。こんなに美味いのにもったいないよねえ。やっぱ関西人はソースかけなきゃダメなのかな?」

コロッケそばを普段から食べ慣れている人にとっては、そばやうどんにコロッケを入れないということ自体が、もったいないと感じるようです。
ただ、ここで一つ疑問が残ります。セルフ式の讃岐うどんではどうなのか。天ぷらや揚げ物を自分で選べるお店なら、コロッケを取ることもできるはず。
そこで、讃岐うどんにコロッケを入れるのか聞いてみると…。

「いや、讃岐うどんには入れないよ。つゆが濁っちゃうじゃん。」
は??
この答えは意外でした。あれだけコロッケそばについて鬱陶しく語ってたくせに、関西風な出汁のうどんにはコロッケを入れないって?
確かに、讃岐うどんは出汁の香りや透明感も含めて楽しむもの。そこにコロッケを入れてしまうと、芋が溶け出して出汁の見た目や味も変わってしまいます。

コロッケそばでは成立することが、讃岐うどんでは成立しない。つまり、ここで見えてきたのは、コロッケそばは黒い関東風の出汁でコロッケが崩れていくからこそ、全体としてまとまる。
逆に透明な関西風の出汁では、その変化がはっきり出すぎてしまう。つまり、関西の人が違和感を持つのも、出汁との付き合い方が違うからなのかもしれません。







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