料理の味を「ありきたりな表現」ではなく、その場の空気感まで知りたい!という人に向けて真正面から伝え切る「沼メシレビュー」シリーズ。
今回ご紹介するのは上野9・10番ホームにある駅そば店、大江戸そばの「中華そば」。最寄り沼は「不忍池(実は自然沼)」です。
この記事では、お店へ向かうまでの街の風景や、料理が置かれた時の景色がどう映ったか。そんな細かなところを、できるだけそのまま拾っていきます。
なお、「味の良し悪し」は語りません。その店を、料理を、時間を、読んだまま感じていただけるよう、筆者が体験してきた「情景」をお伝えします。
普通の食レポではわからない何かを感じたい時、気軽に読める「もうひとつの視点」として使ってみてください。
店の印象


この店があるのは上野駅9・10番線、常磐線ホームのいちばん奥。10番線は車止め付きの折り返し専用で、人がいない時はホーム全体がふっと静まり帰ります。
そんな静けさの中、御徒町寄りの端っこにポツンと立つのが大江戸そば。かつて上野駅が「旅の出発点」だった頃、中央改札から入ってこの店の前を通るのがメインの動線。
誰もがこの店を横目に電車に乗ったはずです。でも今の上野駅は途中駅。中央改札も名ばかりの「中央」。つまり立地だけを見ると、不利な場所かもしれません。
それでも階段下のデッドスペースにうずくまるように建つ、「おてもと」っぽいデザインの看板を見た瞬間、思わずお腹の虫が反応してしまう。
駅そばらしいあの香りというか、「ちょっと食ってくか」に火がつく感じが、この店にはちゃんと残っています。
メニューの印象

外観は古風ですが、食券機は液晶タッチパネル型で意外とハイテク。
中華そばがあることは店外のポスターで知っていたものの、液晶パネルのどこにラーメンがあるのか少し迷います。後ろに人がいたら焦りそう。
ポスターには書かれていませんでしたが、100円高いチャーシューメン設定もあるようです。
この「神コスパ」にはちょっと心揺れましたが、このあと別の食事予定もあったので、前菜感覚でラーメンを選ぶことに。店内は清潔で、お冷もよく冷えていて快適です。
私の後に入った客のそばが先に提供されましたが、店員さんが「順番が前後します。いまラーメン茹でるのでお待ちくださいね。」と声をかけてくれて、とても丁寧な印象。
そんなやり取りをしているうち、さほど待つほどもなく、3分ほどでラーメンが仕上がってきました。
食べた印象



正直、このラーメンには期待してはいませんでした。それは「駅そば店が片手間で出すラーメン」という先入観が、自分の中にあったから。でも丼が置かれた瞬間、その偏見はふっと崩れます。
スープの表面では油がキラキラと光り、その姿はまるで夕日に照らされた不忍池のよう。私は思わず姿勢を正しました。彼は端正な顔立ちをしつつ、素朴さも持ち合わせている。
上野という土地も重なり、私は子供の頃に母と妹と「横浜野毛山動物園」の売店で食べたラーメンを思い出しました。それはチャーシューの代わりにハムが乗った、なんとも飾り気のないもの。
でもそれが、私にとって「ラーメンの定義」になった。その時の記憶が、まさか上野駅のホームで呼び起こされるとは…。
この街に、まだそんな余白が残っていたことが素直に嬉しかった。
食後の余韻


この日は12月の始めで、空気が刺さるように冷い朝でした。私は「もっと厚着してくればよかったな」と後悔しつつ、体を温めたい一心で店へ駆け込んだわけです。
本来ならそばやうどんで十分なのですが、私のようなタイプは平気で「二連食駅そば」をします。なのに選択肢が同じだと物足りなさを感じたりもする。
だからこそ、ホームで「ラーメン」が選べることが、妙にありがたく感じるわけです。もちろん「ラーメン屋行けば?」と言われれば返す言葉もありませんが、ラーメン屋に電車は走ってません。
湯気の向こうを発車メロディと駅の雑踏が浮かぶあの感じは、ホーム上でしか味わえない景色です。ラーメンに胡椒を振る代わりに、駅の旅情をぱらっと添えて食べる。
そんな組み合わせが、寒い「朝の上野駅」にはよく似合います。







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