「横須賀海軍カレーって、なんかまずくない?」─ そんな違和感を抱いたことがある人へ向けて書いた記事です。
有名なご当地グルメとして期待していたのに、いざ食べてみたら「これ…レトルトじゃない?」と感じてしまった。その感覚、あなただけじゃないかもしれません。
テレビや観光ガイドで知っていたぶん、味へのハードルが上がっていた人も多いはずです。
この記事ではレトルトカレーの実食レビューに加えて、実際に専門店で食べたときに感じた違和感や、なぜ海軍カレーに過剰な期待が集まってしまうのかという背景。
そして「ご当地グルメ」という構造自体が抱えるズレについても掘り下げていきます。
海軍カレーのレトルトが「まずい」と言われる理由とは
ヤチヨの海軍カレーを実際に食べて確かめてみた



横須賀海軍カレーのレトルト商品は、実は複数のメーカーから販売されています。パッケージや味付け、具材の内容もメーカーごとに異なり、ひとくくりに評価するのは難しいのが現実です。
今回はその中のひとつ、株式会社ヤチヨが製造する「よこすか海軍カレー」を実際に食べてみました。
じゃがいもやにんじんのサイズが大きく、具材の存在感はしっかりあります。牛肉も2~3個入りで、脂の甘みとやわらかさが感じられました。
ルウは中辛寄りでトマトやソース系の甘みとコクが優しく広がります。特別な印象こそありませんが家庭的で食べやすく、レトルト商品としては十分に満足できる仕上がりでした。
名物なのに期待外れ?失望を招く理由を整理する

横須賀海軍カレーのレトルトを食べて「まずい」と感じた人は少なくありません。
ただその多くは味そのものへの不満というより「想像していたほど特別な味ではなかった」「名物のわりに普通すぎた」といった、落差への失望が目立ちます。
横須賀という地名や「海軍カレー」という響きから、特別感を期待してしまう人が多く、それに届かなかったときにがっかりしてしまう構図です。
加えて価格が少し高めなこともあり、期待に見合わなかったと感じた人の印象がより強く残るのかもしれません。
味自体が悪いというよりも「想像と違った」というギャップが、「まずい」という評価につながっているようです。
なぜ「普通においしい」が語られにくいのか

横須賀海軍カレーのレトルトをおいしいと感じた人も、実際には少なくないはずです。
しかしその感想がネット上であまり見かけられないのは、「わざわざ伝えるほどではない」と感じる人が多いためかもしれません。
名物として知られている食べ物には、特別な味や強い印象が求められがちです。そこに「ご当地」や「海軍」といった重たい肩書きが加わると、食べる前から期待値が上がりやすくなります。
たとえ実際の味に満足していても「まあまあだった」と片付けられてしまえば、あえて言葉にする機会は減ってしまうでしょう。
結果として感想として表に出るのは、期待と違ったことへの不満や戸惑いばかりが目立つようになります。
専門店で本物を食べたのに「レトルト感」を覚えた理由
入店した瞬間に感じた「食の温度差」

さて、次は実際に横須賀海軍カレーの専門店で食べてみたときの「私の感想」をお話します。(2025年10月に実際に専門店を訪れた時の様子です)(お店の場所、名前は伏せさせて頂きます)
店に入った瞬間、まず目に入ったのは重厚な装飾と落ち着いた照明。あと、入口に立てかけられた「謎のアニメキャラ」。店内にはスパイスのいい香りが漂い、クラシック音楽が流れています。
テーブルには艦船の模型や海軍の旗が並び、雰囲気もかなり作り込まれている。
でもなぜか店員さんはメイド服。男性一人客も多く、皆さん「専門的なご趣味をお持ちのタイプ」に見えます(意味深)。
どの要素も単体では違和感がないのに、全部混ざると「胃もたれ」がすごい。さらに気になったのは「店内の静けさ」。グループ客の会話も聞こえず、一人客は機械的にカレーを食べている。
つまりここでは、皆が「何か」を我慢しているように見えました。
一口目で悟った「誰が作ったか分からない味」

カレーを一口食べた瞬間、味の印象は「なんか薄いな…」でした。香りは立たず、スパイスの余韻も感じられない。具材はサイコロ状に整えられ、どれも同じ形をしています。
これを口に入れたときの感触は…「同じ形に切られたジャガイモや人参を口に入れた感触」です…。ご飯はふんわり炊けている。でもルウをかけて食べてみると、「ルウをかけたご飯の味」がする。
名物料理を食べているはずなのに、誰もが経験したことがある「虚無感」が近づいてくる。でもこれを脳が理解するまでに、少し時間がかるようです。見た目は映えてるのに「人の手」の気配がない。
不味くはないのに「なんの感想も出てこない」。半分食べ進んだ頃にはやっと心の整理もつき、「レトルトだったか…」と気付きます。そして皆、店を出るまで無言になるわけです。
映えるけど心が動かない「観光地グルメ」の終着点

ご飯は炊きたてで、フライも揚げたて。見た目だけならバッチリ映えています。でもルウは耐熱皿に入っていて、おそらくレンチン。
自分でご飯にかけるスタイルはオシャレに見えるけど、実際は提供の手間を省くための工夫だと感じました。コーヒーはドリンクバーの味、サラダもカット野菜を使えば厨房に包丁は必要なさそうです。
注文時には「辛さは中辛です。甘口に”お取り替え”できますが、いかがですか?」と聞かれました。この「取り替え」という言葉に、私はレトルトカレーの姿を想像してしまいます。
だから「まずいですか?」と聞かれたら、私は「YES」と答えるでしょう。でも今の海軍カレーは料理というより、「旅の記念写真」に近い存在になっているのかもしれません。
レトルトだと思って食べるレトルトカレーと、名物だと思って旅先で食べるレトルトカレー。仮に中身が同じでも、感じ方が同じであるはずがありません。
なぜ海軍カレーに期待しすぎてしまうのか?
本物の海軍カレーはどこにも存在しない

「海軍カレー」という言葉は広く知られていますが、実は明確なレシピや基準が存在しているわけではありません。
元々は旧日本海軍の食文化の一つであり、航海中の曜日感覚を保つために金曜日にカレーを出すという慣習が生まれました。
その伝統を引き継いでいるのが現在の海上自衛隊で、今でも多くの艦で金曜日にカレーが提供されています。しかしそのレシピは艦ごとに異なり、使用する具材も味の傾向も統一されていません。
つまり私たちが「これが海軍カレーだ」と思って食べているものは、あくまで「イメージ」であって、本物という基準自体が存在しません。
したがって市販のレトルト商品や観光地の店舗が再現しているのは、あくまで「海軍っぽいカレー」に過ぎません。
「名物は美味い」という幻想がギャップを生む

横須賀という地名と「海軍カレー」というワードが組み合わさることで、多くの人は自然と「ご当地グルメは美味いはず」という期待を抱いてしまいます。
実際には海軍カレーは先ほど述べたように明確な味の定義がなく、再現される内容は店舗やメーカーによってバラバラです。
にもかかわらず「名物」というラベルが付くと、何か特別な味があるような錯覚を起こしてしまいます。
そして実際に食べてみて「思ったより普通だった」「家庭的すぎた」と感じたとき、そのギャップが失望につながりやすくなる。
これは味覚の問題ではなく、期待値の設定ミスによるギャップ症状と言えるでしょう。「名物は必ずおいしい」という前提は、時に食べ手にとっても作り手にとっても重荷になってしまいます。
「海軍カレー」という言葉が意味を失った理由

「海軍カレー」という言葉は、当初は横須賀の観光振興のために生まれたブランドでした。1998年に市や商工会議所が中心となって再現レシピを配布し、飲食店で統一的に提供を始めたのが最初です。
当時は「牛乳とサラダを添える」という提供スタイルも統一され、一定のフォーマットが保たれていました。
しかしその後、レトルト商品や他地域への拡大が進むにつれて「海軍カレー」という言葉が一人歩きし始めます。
今では味も形も提供スタイルもバラバラで「何が海軍カレーなのか?」という問いには誰も答えられない状態です。この曖昧さが、名物としての信頼感や特別感を徐々に薄れさせてしまいました。
名前だけが有名で中身が追いついていないというズレが、今の現状を象徴しています。
横須賀海軍カレーの今に感じた違和感
なぜご当地グルメとして失速してしまったのか

かつて横須賀の街では、海軍カレーを提供する飲食店が複数存在していました。しかし現在では、その数は大きく減少しています。
その背景には、海軍カレーを提供すること自体がコストや手間のかかる取り組みであるという現実があります。
再現レシピに従って牛乳とサラダを必ず添えるというルールもあり、提供単価はどうしても高くなりがちです。
観光客には一度限りの話題性で受け入れられても、日常的に通ってくれる地元客には割高で入りづらい存在となってしまいました。
また観光の目玉にするには派手さに欠け、長期的に訴求力を維持するのが難しかった点も大きいでしょう。
結果として今や「海軍カレーが食べられる街」という印象と、実際の現地体験との間に少なからぬ落差が生まれています。
艦これコラボで街の空気はどこへ向かったか

2010年代に大ヒットしたブラウザゲーム「艦隊これくしょん」は、海軍というテーマを若い世代に広く知らしめました。
その影響を受けて、横須賀をはじめとする旧軍港の街では「聖地化」の動きが加速し、観光や飲食業界もその流れに乗る形でコラボ商品や装飾、イベントを展開しました。
海軍カレーも例外ではなく、キャラクターやアニメ系の演出と結びつくことで新しい集客を狙う動きが見られました。
しかしそれによって、もともと地元で大切にされていた「まじめなカレー」の空気が薄れたと感じる声もあります。
観光向けの演出が強まるほどに「食としての本質」や、街のリアルな空気感が見えにくくなっていったのかもしれません。賑わいの裏で、文化の軸が揺らいでしまったとも言えるでしょう。
正解がないから、誰も満足できない現状

海軍カレーという言葉には歴史や文化、観光、再現レシピといった多くの意味が詰め込まれています。しかしその中には「これが本物」という基準が存在していません。
艦によってレシピが違う、店ごとに味が違う、レトルト商品はさらにバラバラ。つまり食べる人がどんな味を想像していたかによって、満足度が大きく左右されてしまうのです。
「本物の海軍カレーを食べてみたい」と期待した人が、結果的に「なんだか普通だな」と感じてしまうのも無理はありません。
正解がないまま全国に広がってしまったブランドは、誰にとっても「ちょっと物足りない」存在になってしまう危うさを抱えています。
味そのものよりも「意味を求めすぎる空気」が、海軍カレーの本当の味を曇らせているのかもしれません。
まとめ:フェリー乗り場の海軍カレー

今回のテーマは「横須賀海軍カレーがまずい?」という、ちょっと挑戦的なものでしたが、実は私自身、海軍カレーには強い思い入れがあります。
20年ほど前、横須賀の「魚藍亭(ぎょらんてい)」というお店が大好きで、牛すじがじっくり煮込まれた本格的な海軍カレーをよく食べていました。お値段も当時は確か1,000円ちょっとで、気取らず真剣にカレーを出してくれるお店でした。
残念ながら今は代替わりして、当時の雰囲気とは少し変わってしまったようで、最近は訪れていません。でも当時の横須賀には本当に「おいしい」を追求したカレー屋さんがいくつもあったんです。
今では横須賀で海軍カレーのお店を探すのもひと苦労。Googleマップを開いても観光客相場のお店ばかりで「ビジネス臭がプンプン」というのが正直なところ。
そんな中で最近見つけたのが、東京湾フェリー・久里浜港ターミナル内の「コーラル」という食堂です。
「え、フェリーターミナルの食堂?」と思うかもしれませんが、ここの海軍カレー(現在は860円程度)が本当に美味しくてびっくりしました。しっかり満足できる味で、しかも価格も手頃。
横須賀中心部からは少し離れていますが、今の横須賀市内で「美味しい海軍カレー」を食べたいなら、間違いなくおすすめできる一軒です。
フェリーに乗らない人でも利用できるので、気になった方はぜひ一度味わってみてください。ここにはまだ、あの頃の空気が少し残っている気がします。




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